LIVE DAM WAO! の分析

LIVE DAM WAO! (型番: DAM-XG9000; 以下、XG9)は、第一興商製の商用カラオケ機器です。

LIVE DAM WAO! (右から 2 番目) 及び周辺機器; プレスリリースより

旧機種からの主な変更点は、以下とされます。(プレスリリースより抜粋)

  • DAM Multi Dimensional Sound
  • 歌うまフィルター
  • なりきりエフェクト
  • ハモルン
  • 精密採点Ai Heart

分析手法

今回の分析では、システムログとソフトウェアのバイナリを入手し、これらを利用しました。なお、これらは適法に取得されたものです。

ハードウェアアーキテクチャ

今回分析した XG9 (シリアル番号: BA0NNNNN;以下、対象 XG9) の主なハードウェアアーキテクチャは、以下です。

ソフトウェアアーキテクチャ

対象 XG9 の主なソフトウェアアーキテクチャは、以下です。

  • OS: Poky Linux 11.3.0
  • カーネル: Linux 5.15.49-intel-pk-standard
  • メインプログラム名: altair

DAM Multi Dimensional Sound

この記事では、従来の MIDI 音源に代わるとされる DAM Multi Dimensional Sound について掘り下げます。これはプレスリリースにおいて

従来のMIDI音源方式に加えて、最新のソフトウェアシンセサイザーやプロミュージシャンの生演奏を組み合わせたハイブリッド演奏方式を採用。高音質かつ重厚なサウンドが楽しめます。

と説明されています。

ヤマハ製音声入出力ボード YBD

一世代前の機種である LIVE DAM Ai (型番: DAM-XG8000; 以下、XG8)までは、YAMAHA が開発したカラオケ機器向け音源ボード (音声入出力ボード) YBD シリーズが搭載されていました。

Advantech 製マザーボード HVS-1010K (左) と YAMAHA 製音源ボード YBD3 (右); XG8 カタログより

XG9 において、YBD がどうなったかをソフトウェアから考察します。XG8 と XG9 には、それぞれ SphinxManager (XG8)、SphinxManager2 (XG9) というソフトウェアが搭載されています。SphinxManager(2) は、両機種に搭載された音声入出力デバイスを制御するためのものです。XG8 の SphinxManager には、USB 接続された MIDI デバイスを制御するためのコードが含まれていました。しかし、XG9 の SphinxManager2 には、それが含まれていません。他のソフトウェアを探しても、そのような部分は見つかりませんでした。つまり、XG9 の音声入出力ボードには、MIDI 音源は搭載されていないと結論付けられます。(搭載されているが使用されないという可能性は一旦考えないものとします。)

MTF 形式

従来の MIDI 方式で用いられていた楽曲演奏情報ファイル OKD 形式 (関連: 同人誌, GitHub リポジトリ) の代替となる楽曲音声ファイル が MTF 形式です。MTF 形式の実体は gzip で圧縮されたアーカイブファイルであり、展開すると以下のようなファイルが現れます。

各ファイルの内容は、以下です。

  • 9999.1000[1-4]: パーカッション, その他, ガイドメロディ,シンセサイザコーラス (OPUS)
  • 9999.10NN: バックコーラス (ADPCM)
  • *.json: メタデータ等

他、AutoVocalEffect.mid というファイルが含まれる場合があり、新機能のなりきりエフェクトの制御で使用されるようです。なりきりエフェクトはプレスリリースで

原曲でアーティストが使用している特殊なボイスエフェクトを再現。対象のパートのときだけ拡声器になったり、機械音声のエフェクトがかかるなど、ライブや原曲の雰囲気に近づけることができます。

と説明されています。

総括

LIVE DAM WAO! は、商用カラオケ機としては珍しく MIDI 音源を搭載しないことを選択した機種です。このような機種が誕生した理由は主に

  • インターネット回線の広帯域化
  • HDD の高容量化

であると考えます。XG9 と第一興商との間を結ぶ回線は 100 Mbps から 1 Gbps の帯域幅を持ちますし、XG9 は 12 TB の HDD を 2 台搭載しています。従来、MIDI ファイルは小さな情報量で幅広い表現力を持つ演奏情報ファイルとして利用され、演奏されるときには演奏機械で MIDI を解釈し音声を生成していました。しかし、演奏機械に転送し、保存される情報の量の制限が緩和され、このような方式を用いなくて良いと判断されたのでしょう。この判断の良し悪しの評価は行いませんが、カラオケ機器の新しい形が生まれたといえます。

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